2019/4/21
「storage_0 ALICE」
アーティストトーク全文
杉岡みなみ(以下・杉岡):
みなさんお待たせいたしました。これからアーティストトークを開催いたします。まず、ここ、会場になっております、堤伸銅軽金株式会社の社長、堤嘉延さまから乾杯の音頭をいただきたいと思います。堤様よろしくお願いいたします。
堤嘉延(以下:堤):
僭越ながら。ご指名ありましたので私の方からご挨拶申し上げます。本当に今日はお休みのところお出かけいただきましてありがとうございました。中目黒アートプロジェクトというものとは、去年、漆崎さんを中心に若い作家とたまたまご縁がありまして、会場を使用していただくことになりました。最初はどんなものになるかまったく想像がつかなかったんですけど、若いもののパワーはすごいと思いました。本当に自分たちの力だけで企画をして会場にする、メディアを使ってよくここまで形にする、昨日も盛況で、これから新しい形で発信していきたいというみなさんの努力が結実した大変素晴らしいものになったと。彼ら、みなさんが新しいものを考えて新しい形で発信していくという意思に、少しでも私がお役に立てることがあれば、またいっしょに協働したいと思っております。ということで乾杯。
一同:乾杯&拍手
杉岡:
では、この展覧会を開催する経緯を簡単にお話しして、そのあと会場の作家たちに紹介していきます。
まず中目黒アートプロジェクトが主催しているんですけど、大変若い団体でして、まだ本格的な活動の準備中という段階です。今回の「storage_0 ALICE」というのも、まだ始動する前の段階の展覧会という形で開催に至りました。
堤:
0は1の一段前だもんね。
杉岡:
そうなんです。まだ生まれる前の「0(ゼロ)」なんです。
折笠(以下:折笠):
この展覧会を開始するにあたり、一年間準備させていただいたのですが、きっかけになったのが、いま上に展示してある2点、こちら今回出品作家の漆崎正樹くん、僕らの同級生で、学部大学院が一緒だったんですが、実はもうお亡くなりになられておりまして、今回の企画出資者の漆崎孝子さん、あちらにおられますが、その息子さんが漆崎正樹君です。正樹君は大学院を修了されてから彼は作品を幾つか遺しており、その作品を展示する今回の機会を、折笠、杉岡、浅野、山嵜の4名がお手伝いさせていただきました。漆崎さんが堤伸銅軽金さんのこの倉庫を見つけてくださって。前向きなプロジェクトはできないかとおっしゃっていただき、そこでわれわれアーティストがどう作ろうかと話し合い、実現いたしました。僕らが倉庫というどうやって展示会場として難しかったです。これから作家たちがどうやって会場を作り上げていったかをお話ししたいと思います。折笠敬昭と申します。背後にある屏風形式の作品をかかせていただきました。
杉岡:
杉岡みなみと申します。私はこの角にある2枚と、正面向かって一番奥の壁にある2枚を書かせていただきました。
山嵜雷蔵(以下:山嵜):
山嵜雷蔵と申します。クレーンで吊るしてある作品と、上方に飾ってある作品。
浅野拓也(以下:浅野):
浅野拓也です。他のみんなと違って、僕だけ油画、今回こういう展示ということで、この壁に書かせていただきました。
折笠:
今はトークのために一部明かりをつけていますが、本当はかなりくらい展示です、
ライティングについてー見たいという意思を持って見る展覧会
杉岡:
一回明かりを消しましょうか。暗くなるので足元お気をつけください(消灯)これが、先ほどまで展示していた通常の展示空間になります。いまはコップなどお渡しするので渡してないんですが、懐中電灯をお渡ししています。見たい作品にむけて照明を当てていただく、それによってという鑑賞をする。見たいものがどこにあるのか探して、見たいという意思を持って照らして見るという展覧会です。
折笠:
本来僕ら、作品を発表するときに白い壁にある程度の明るさの中に、さらに作品を照らして展示という形をとっております。あえて作品の全体像を隠した展示にしております。それぞれの作品の特性をまじえつつ説明させていただきたいと思います。まずここにあるこの壁、光り輝いているんですが、壁に直に書かせていただきました。作者の浅野君お願いします。
浅野:
僕はこの作品を作る経緯は、元は折笠君と杉岡さんが先にこの企画を進めていて、ぼくは途中参加になるんですが、僕は油画、既存の作品を持ってきても良かったんですが、この倉庫自体が年内に取り壊しになってなくなってしまうというお話を伺って、社長とお話ししているうちに「壁に書いてもいい」ということになり。ちょっと前に熱海の方でブラックライトを使った展示というのをしてまして、今回この光量を抑えた倉庫で展示するということで、何かその、日本画と油画ではなく、すでに暗いという条件を聞いていた時に、どうせならなにか作りたいなと思って。配管とかドアを見て考える癖があって、何かこれを使って作品を作ろうかなと思ってたんですけど、だったらこれに直接描いて表現したら面白いかなと思って、それで、前の経験からブラックライトを使った展示になりました。
山嵜:
山嵜です。この作品2点なんですが、ひとつは暗い中で作品飾った状態でしたから空間が真っ暗なので、真っ暗な空間の中で距離感が演出できないかなと思って風景画を持ってきたのですが、壁に穴が開いて、その向こうに抜ける道が見えないかなと。風景が広がってるみたいな表現ができないかな、普段のギャラリーでの見せ方とは違う見せ方ができないかなと思い、実践してみました。これは、特に直接光は当ててないのですが、直接ライトを自分で照らしながら鑑賞してもらうということをやってみたいなと思いまして。ライトで照らすまで何が描いてあるのか判然としないんですけど、照らしてじっくり見てもらうことでゆっくり何が描いてあるのかわかっていくというものです。
杉岡:
私は、真っ暗な海に潜った時に感じた恐怖心とか恍惚感とか、そういったものを距離にまつわるエレメントの一つと解釈して作品テーマとしています。左側にある「宝貝」という赤いほうの絵なんですが、明るい環境で見るとごく一般的な四角いパネルなんですが、展示では一部分のみに丸くトリミングするようにライティングしました。宝貝というのは、カタツムリのようなくるっとしたおまんじゅうみたいな貝で、一側面のみに亀裂があり、それをすごく拡大して描いています。宝貝というモチーフの中でも、その亀裂部分が、「距離」という私の関心を如実に表せる箇所なのではないかと思ってまして。一枚の絵の中でも距離というテーマがより強く表れている部分のみを、丸くトリミングしたライティングで展示してみました。
あと、上に飾ってある正樹君の説明を……これ先ほどもご説明申し上げたんですけど、彼は同級生でした。この作品は修了の間際に、私の真横で描いていたものです。今回の展覧会、葬儀、法要のタイミングで彼の絵を是非飾りたいという申し出が、本展主催の漆崎孝子さんからあり、今回の展覧会では是非正樹君の絵と我々の絵を一緒に飾りたいと考えました。ドメスティックな話ではあるんですが、彼とのグループ展も叶ったという話です。
で、正樹くんと対角線上に展示をしたのが、折笠くん。奥側上方にある正樹君、手前側下方に展示してあるのが折笠君です。
折笠:
僕の絵はこのお屏風形式のものなんですけど高さが約2メートル20、横幅6M、ちょっと威圧感が出るくらいの大きさのもの一つ一つ作ったものを蝶番で繋げているんですけど、今回自立させる、屏風を自立させるというとき強度がありなかなか倒れない、組み立てが簡単、これくらいインパクトのある空間の中で耐えられるもの。これ2016年に描いた作品なんですが、明るくすると極彩色なんですが、今暗くなってるんで今結構密度あるふうにみえるとおもいます。この空間と戦って負けない作品ということでこちらを出しました。下にある光源は一番弱い出力にし、あえて絞った見せ方、全体を隠すという展示にしました。
この空間にはもともと、壁に設置してあるものは壁に穴を開け、アンカーを打ち、さらにビスを打ち込み、展示させてもらってます。取り壊しがあったので許可をもらいつつの行為だったんですが、画廊などとは違ってそういうところが大変だった。どうやったら穴が開くドリル、いい寸法の釘なのか…。
苦労話になってしまうんですが、ひとりひとり準備のときの話をいいですか? 例えば、今ここに吊るしてある雷蔵君の絵とか…。
山嵜:
ああそうですねー。倉庫ならではなんですが、レールとクレーンがあって、僕の絵は吊ってます。あまり壁面ばかりに絵があってもあんまり楽しくないねとなり、僕の絵を吊るすことになって。普段こんな展示の仕方はしないんですけど、絵の上辺に穴を開けて、アンカー鎖をつけて、下は重石で動かないように、クジラが描いてあるんですけど、照らしてみると自分より高い位置に生き物がいきなり現れて「わあああ」っとなる演出ができたらなと。自分にとって新鮮な展示です。こっちの絵は、先ほど折笠君が言っていたみたいにアンカーを打ち込んで展示してるんですが、あまり照明が強すぎると空間が明るくなりすぎちゃって空間が壊れちゃうとよくないねってことになって、それで、自作なんですけど、照明を絞って、絵だけに光が当たるように工夫しました。やっぱ、暗い倉庫の中って状況を維持しつつ作品を見せるというのを一番気にしながらこの展示をしました。
折笠:
今雷蔵君が照明の話をしてくれたんですけど、この展示で使っている照明は全て自前のものを用意いたしまして、杉岡さんもスポットライトという特殊な見せ方をしておりますので、説明お願いします。
杉岡:
まず倉庫で絵の展示をするっていうのが非常に難しいなあと思って、最初に結構悩んだんです。彫刻の人入れたほうがいいんじゃないんじゃないのって提案してたんですけど、絵だけでやってみたいという孝子さんと折笠君の強い思いがあって、今回は倉庫で絵だけでっていうチャレンジをしてみようってことで、何ができるか。照明をあえて落としてみようかって話になりました。まず通常みたいにギャラリーに絵を搬入して置いて完了というわけにはいかなくて。普通だったらレールライトがあって、そこに置いて照らしたら終わりなんですが、今回はコンクリートの壁。特殊なものを自ら用意しなくてはいけない。そもそも粉塵から守るというの目的のものが倉庫なので、たくさん照明をつけられるような電圧もなく、ごく一般家庭程度のものだったので、全体をとにかく明るくするというのが選択肢に入れられなかった。場所の制約というのを逆手にとれるような展示をしようというのが今回のキーワードだったんですけど。
あと、このトークの一番最初、明かりつけていたんですけど、電気ぱちっと消した時に、目が慣れるまではすごく暗く感じたと思います。明るい部屋から暗い部屋に入ってくると、身体的にすごく制約がかかりますよね。たくさん情報が拾えてしまうという状態から、一回多すぎる視覚情報を遮断して、あえて抑圧を与えることによって、見ようとしないと見られない展覧会になります。ギャラリーは、見たいと思わなくてもちゃんと綺麗に見えるようにケアされています。でも、鑑賞が受動的なのが少しつまらない。見たいと願うことによって初めて成立する能動的な鑑賞体験を絵でしてみたい。見たいと思わないと見えない、能動的にならないと見えない。暗い倉庫という制約を逆手にとって展開した展示です。このあと一度落ち着いたら、皆さん会場を自身の目で歩いてみて欲しいなと思います。
折笠:
そうですね、近づいて見たり退いて見たりっていうのが、美術館ではそもそもその行為自体が後ろめたかったりすると思うんですけど、今回は制約をもたせたことでお客さん皆さんすごく積極的に近づいたり退いたり、その行為が気づかないうちに積極的になっている。普通僕らがやる展示と今回の展示の滞在時間を比べてみると、この空間にかなり長く滞在しています。だんだん居心地が良くなってくるみたいで。
杉岡:
単純に、いま電気消してからしばらく経ったんですけど、皆さんきっと目がもう慣れてきてだいぶ見えるようになってきてると思います。この暗いところに、暗いところで絵を見るっておかしいんですけど、普通じゃないんですけど、自分の空間がこの空間に馴染んできていると最初入ってきたときと比べてみて体感できているんじゃないかと思います。
折笠:
今回「storage_0 ALICE」のイメージソースは童話「不思議の国のアリス」でして、主人公のアリスがいきなり日常の中で異空間に入り込んで、いろんな窓のような洞窟のような、イメージを移っていくというお話だと思うんですけど、この暗くしてということや、作品の世界をそれぞれ点々とそれぞれ没入していくようなそのイメージでアリスという名前をつけました。
杉岡:
アリスの冒頭で、アリスが木の虚(うろ)に入っちゃうんですよね。穴の中をアリスが結構長い時間落下していくシーンがあるんですけど、あそこでいろいろなものと出会って、大きくなったり小さくなったりという出来事があるんですけど、あの穴の中をイメージソースとしているんですよね。
で今回、絵を描いて飾るだけじゃなく、浅野君にはここで滞在制作をしてもらいましたが、コミュニケーションがないと実現できないような。中目黒なんですけど、この中目黒において、アーティストが自発的に発表を自由にしたりだとか、コミュニケーションをとっていけるような拠点を持ちたいなという構想があって、その準備段階でという位置付けなんですけども、今いらしてくださってる方、作家の方や関係者の方多いと思うんですけど、地域の方に興味を持ってもらいたい、アートってそんなに難しいというか形式張って見なくても、たのしいよっていうまず楽しみを与えたいねっていうのが今回出品作家がチャレンジしてみたことですね。
折笠:
浅野君、滞在制作してもらいましたね。浅野君はこの作品ブラックライト、飛び道具って言ってましたけど…。
浅野:
うん、間違い無く飛び道具。今回普通に油絵を持ってきても良かったんですけど、今回この壁面を思いの外大きく、倉庫で、こういった配管がある空間で展示というのがまずありえない。そしてこの異様な天井高。空間はひんやりしてる。その感覚がまずあって。もともとそういうアリスとか暗くしてって話をもらっていた上で、ディズニーランドとかカラオケ館とかでこういう表現ってあって。黒を使うっていうのが、マットブラックっていうツヤのない黒を使ってるんですけど、思い切り中が抜けるというか、もう本当に真っ暗なんですよね、ブラックライトが反射しない。だからそれを生かすことで暗黒の部分があって、手前と奥の空間を極端にばきっと出せる。こういう空間とブラックライトがあるので、錯視的な効果があって、エンターテイメント的な表現。壊される建物、ざっくりとした物語性を出した。本来はあまり物語性を出さないんですけど、今回は展示の情報や制約をもらった上で作品を作った。
杉岡:
浅野君は絵画のみで展示をするっていうのが決まった時点で声をかけた作家なんですけど、普通他の人はパネルに書いて絵が独立するように描いていて、彼もそういったものを描いているんですけど、まあ今回頼んでみて面白かったのが、彼は絵画の構造自体に関心がある作家で、例えば木枠に書いてみたり、起伏のある画面を書いていたりだとか、そういった作家なので、実際は呼んでみたら全然違うことしてくれたから、おもしろいなあと。
折笠:
浅野君は油画科出身だけど、他はみんな日本画科の出身で、倉庫に日本画という組み合わせもかなり珍しいんじゃないかなと思います。後で懐中電灯お渡しするので、近づいて見てみてください。絵画の表面がキラキラ光っていたり盛り上がっていたり、普通のいわゆる絵画の表面の材質感とは違うものが見えると思いますのでそれも楽しんでいただきたいなと思います。
もし今質問があれば作家がお答えします。ちょっと挙手が見えづらいので、その場で声をかけていただけると。
鑑賞者A:
はい。いいですか? そこに大きな絵があると思うんですけど、大体どのくらいの期間で書いてるんですか?
折笠:
正樹君の場合は2ヶ月から3ヶ月、取材を含めると3ヶ月くらいかかってます。
山嵜:
そうですね、僕の場合もそのくらいですね。構想の時期からカウントするとそのくらい。
鑑賞者A:
その間その作品に集中されるのか、あるいは他の作品なんかも同時並行で進めているのですか?
山嵜:
まあ作家それぞれだと思うんですけど、同時進行で別の作品も書きながら、という場合もありますね。
鑑賞者A:
ほうほう。ありがとうございました。
折笠:
ありがとうございます。……あとはそうですね、一枚一枚作る時間にも差はあるんですが、今回は基本的に、もう過去に描いた絵を出品したものが多いです。最新作って本当に言い切れるのは、浅野君の滞在制作の絵と、杉岡さんの小作品が、時系列的には最新作で、大学在学中に描いた絵が多くて、この会場に合わせて「あの作品ってまだある?」と確認しながら持ってきてもらった感じです。……暗い中で日本画を見るってこともなかなかないと思うんです。
鑑賞者B:
まさにこういう環境で展示、普通はないですよね。でその中でこういった環境を実現して皆さんに見てもらうっていうのは、みなさんの挑戦的な意欲に基づいたもので、普通はなかなかできないことだと思うんですけど。
折笠:
そうですねぇ、自分たちで思いついたとしてもやるということまで実現がなかなかできない。今回は漆崎さんのご協力あっての、このプロジェクトの第一弾という動機があったので、またこの会場を幸運にも提供していただいた堤社長のご好意など、さまざまな、奇跡と言っても過言ではない会場です。
浅野:
僕なんかは逆にもう条件を聞いた上で参加しているので、僕の場合は「空間に合わせた作品制作」なんですけど、逆に昨日来られたギャラリーとか美術館に慣れている方からすると結構賛否両論。本来の姿、明るさ、先ほど杉岡さんが言ったように、明るさがその作品に合わせて空間ができているので、空間自体が作品に合わせる場合ですよね。逆に言うと作品が空間に合わせていかないといけない。本来の姿で見ることができない。だから自らの意思でライトを当てて作品を見に行かないと見えない。逆に言うと、美術館に慣れている方から見ると、邪道でもあるんですよ。そこは賛否両論です。自らの意思で照らさなきゃいけない。空間くらいなって思ってすぐ帰ってしまう人もいる、それはそれぞれの受け取り方というか、人を選んでしまう空間にもなっているんですよ。そこは課題でもあり、我々の新しい試みでもある。
杉岡:
今回堤様のご協力とご理解があってこそのこの展示の仕方だったので、二日間しか開催できないのが本当に惜しいんですけども、こうして多くの人にご来場頂いて、たくさんいろんな意見をいただけて、本当に感謝してます。
で…主催の中目黒アートプロジェクトの運営やサポートとしてわたし杉岡と折笠が中心になってお手伝いしているのですけども、代表の紹介がまだでした。代表の孝子さん。孝子さん…あれ、孝子さん、あ、いたいた。ちょっと今後のことをお話ししていただいてもよろしいでしょうか。
漆崎孝子(以下:漆崎):
何度か名前を連呼していただきました、漆崎孝子と申します。
何からお話ししよう。
2016年8月に私の息子がなくなりまして、25歳でした。その4ヶ月後12月に今度は夫がくも膜下出血で亡くなりまして、2016年は忘れられない年になったんですが…。
息子は、皆さんご覧いただいております上の2点を含め8点ほどとても大きな作品を遺しました。それから夫の方がわずかな財布を残していきました。
わたしとしては、二人がわずか4ヶ月の間に無くなるという経験をして、ちょっともう生と死の狭間がわからなくなりまして、どうも生と死はあまり大きな差はないらしい、続いていて、誰にでも訪れる通過点であると。やっぱり人生は途中で終わるという言葉を思いまして、私は明日お呼びがかかるかもしれない人生の中で、この二人が遺したもの、遺作と遺産、これをどうやって引き継いでいけば良いのか、最初はあまりの大きさに押しつぶされそうだったんですけど、ずっと考えておりました。
その時に、生前主人とも話していたんですけども、正樹の同級生たちや、世の中の駆け出しのアーティストがやりたいことをできる場所を作らないかと。わたしが提案しましたら、主人が「いいねそれ」と言っておりましたので、多分私がやっても文句はいわないだろうと。なおかつ、わたしになにかあっても若い人たちが引き継いでいけるような準備をしておけば、まあ私がいつ正樹のところに呼ばれても文句はない。そこまではやろうという風に考えて、この三年間そのように考えて生きてきました。
ある日、去年の春先だったかと思うんですが、私の住んでいるところがこのすぐ近くなんですが、散歩で歩いてるとシャッターを見つけて、このシャッターの中は何があるんだろうというふうに思いまして。ガレージではないだろうなあと思っていたんですが、その日、初めて男性がドアから出てくるところを見かけました。で、迷ってるうちにその方がまた中に入ってしまいましたので、もう意を決して入っていきまして、「すみません、ちょっとお話があるんですけども」と申し上げたのが、全てのきっかけでした。
その時いらしたのが、このビルのオーナーの堤社長。最初社長は「何言ってんだこの人は」と思われたそうですけども(笑)
私としては、申し上げたのは「ギャラリーをやる場所が欲しい。場所を探しているんだけど、すぐに、私は素人なので、既存の場所を貸していただけたらまず第一の足がかりができる、チャレンジができる、「storage_0」 ができる」ということをなんだか一生懸命話しておりまして。その時から、なんだかあっという間に歯車が回りだし、物事が進みはじめました。
なおかつ、正樹の同級生で、今日集まってくれている作家の皆さんは大変誠実で真面目な人ばかりで。すべて、この倉庫に合った展示の仕方を、侃侃諤諤(かんかんがくがく)議論をして決めて、この倉庫の長年積もったチリの掃除から何まですべて自分たちでやっておりました。
それから、一番嬉しかったのは、堤社長ご本人が会うたびに私たちのことを信頼してくださり、ご自分もご協力してくださって昨日はもうずっと受付にいてくださって。
もうなんて私は恵まれているんだろう。たぶんこれが、息子と夫の残してくれた最大の遺産だろうと感じながら、この数日間を過ごしまして、昨日開催にこぎつけました。
たくさんの方にも来ていただきまして、ちょっと奇抜なというか、日本画本来の見方ってこういう見方もあるのかーっていうような、素人の私としては大変いろんな発見をしながら過ごしている48時間でございますけども、皆さんにも暗闇の居心地の良さですとか、そこでみる美しい作品の物語や、そして作家の言いたいこと、心の中、そういうのを感じていただければ嬉しいなと思います。
あ、それで将来の話をしなくてはいけないんでした。
私は中目黒で、やりたいことのある人が、それを実行できる場所を持ちたいと思っています。私が若い人が使ってくれるような場所を持ちたいと思って、そこに集まった今度は若い人だけじゃなくてお年寄りやいろんなキャリアの方が自分のやりたいことそこを借りてやれる、みたいな場所を作りたいと思っています。その一番に名乗りを上げてくださっているのがこの若い作家たち。中目黒アートプロジェクトという肩書きを使いながらいろんな活動をしていきたいと思っています。地域の方にも見ていただきたいと思っています。どうかこれからもご支援、ご関心を寄せていただけますと嬉しく存じます。どうぞよろしくお願いいたします。
(拍手)
杉岡:
漆崎さん、ありがとうございました。
えーと、堤社長いらっしゃいますか?
堤:
はいはい。
杉岡:
何度も連呼して申し訳ございませんが、改めてご紹介します。堤嘉延さんです。
堤:
はい、堤でございます。本日はありがとうございます。
杉岡:
堤さんのご理解とご協力があってこの展示は叶いました。本当にありがとうございました。
で、普段ここはギャラリーとして経営しているわけではなく、まさか、主婦の方が展示をさせてくださいと駆け込んでくることなんて全く想定してなかったと思うんですが。
堤:
全く想定してなかったですね。笑
杉岡:
そうですよね。笑
堤:
ギャラリー展示をする場所を探してるんでこの倉庫を貸してください」ということだったんですが、あまりに唐突だったもんですから、「どういうことですか?」と色々話をさせていただく中で、一生懸命何かをしようとなさってるなという熱意が伝わってきました。
漆崎さんを盛り立てている若い人たちが、お亡くなりになった正樹さんというご子息・ご友人、友人である正樹さんを心に残しながら、なにか前進を促すような創造的なことをしたいという気持ちが、私なりに感じられたものですから。
で、正直に、このビル。もう少しで解体して新しいビルにする予定なんです。で、当然新しいテナントさんに入っていただくことを想定しているんですけども……えー、実を言うとですね、最初は全く違うことを考えていたんですけど、ギャラリーをやりたい、どうしても貸してくれというもんだから。で、ここで本当にできるんですかってことをお話ししながら、可能性があるんだ、こういうプロジェクトを作って地域に密着した文化発信の場所にしたいんだというお話を聞いたもんですから。実は私もこのビルを建て替えるときにですね、単なるオフィスビルを建てるですとか、マンションを建てるとか言うだけではね、いずれ建物が劣化すると壊される運命にある。ですからなんか、建物を建ててそれが周辺に意味のあるもの、建物が古くなってもその古さが良さとして存在するような、そんなデザインやそんな意味合いのあるもの、まあ言ってみると広い意味では地域への文化発信の何か意味のあるものができるような場所にしたいなと、漆崎さんとまさしく同じことを考えていたんだけど、ぼくがそれ口で、いつ言ったか忘れちゃったけど、このビルがなくなったきにね、佇まいがちゃんとしたビルであれば、なんかあるだろう、それを若い人が引き継いでね、さらに展開していく、今は点でもいつか面にしていってくれればなあ、なんて思いが共通したんだよね。
それで、急遽設計を変更しまして、ギャラリー仕様にすると。あっはっは
杉岡:
……ん?
堤:
あとは開口部はね、ギャラリーの、作品によっては大きなものがあるからね、って折笠さんが言うもんだからね、じゃあドアの大きさはどんくらいがいいねなんて言ったりしてて。ということは逆に言うとね、こういう設計書にしますからね、借りていただかないと非常にまずいわけです。笑
杉岡:
……ん?……ん⁉︎
一同:(笑)
堤:
末長く文化発信の場所としていただければなあと思っています。笑
そんなわけで、みなさん応援よろしくお願いいたします。
一同:拍手
杉岡:
ありがとうございます。最後に聞いてなかった爆弾発言があり驚きましたが…嬉しいやらびっくりやら…。
鑑賞者C:
ここはどんな目的で使ってたんですか? 天井も高くて・・・
堤:
これはねえ、向こうに置いてありますけど、金属の製品をたくさん置いてあったんです。それで、トラックが2台ほどあって、お客様に運ぶっていう。今ちょうど、私が別のところに倉庫を持ったものですから、ここは本来の機能の10パーセントくらいしか使ってなかったんです。ただ、現役倉庫であることは間違いない。ですから今日こういうイベントをしてくれて、言って見ればこの建物の最後の段階に大きな歴史が刻まれた、私としても非常にありがたいと思っております。ありがとうございます。
杉岡:
みなさま今日はありがとうございました。
一同拍手
折笠:
では、これにてアーティストトークを閉めさせていただきたいと思います。このあとこの照明やお飲み物のテーブルはこのまま、一旦懐中電灯をお渡しいたします。このあとお帰りになる方には、可能な限りアンケートにもご協力いただきたいなと思います。お時間許す限り、この展示を楽しんでいってください。今日は本当にありがとうございました。
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